色黒の豚

飛ばねえ豚はただの豚だ

砂漠に行きたくて

 椎名誠の『砂の海』を読んで、無性に砂漠を見たくなった。何処を見渡しても砂しかない、大陸の大砂漠に圧倒されたかった。真っ先に思い付いたのは、中国の内モンゴル。住んでいた北京に近く、留学生の間でも人気の観光地だ。さぁブームに便乗だ、と調べるが、1人で行くと安くない。くそ、素直に安い留学生ツアーで行けば良かったと落ち込むが、閃く。中国を出よう、モンゴルに行こう。調べてみると、北京から夜行バスと夜行列車を使って5千円強でいけるらしい。これしかねえ、スーホの白い馬よ、大砂漠よ、待っておれ。と小躍りした。

 

 まず北京から夜行バスで、中蒙国境の街、二连浩特を経由する。都市部から少し離れたバスターミナルに向かった。その付近は瓦礫が多く、砂埃が舞っている。何となく不穏だ。ターミナルを見つけ歩いていくと、待ち構えていたように、路上に立っていたおじさんがこちらを見て叫ぶ。バスはだめだ!コッチニコイ!!その声量に一瞬鳥肌が立つ。客引きオヤジめ、あんなもん見ザル聞カザルだ、と無視して進んだ。が、しかし本当に、バスはだめだった。ターミナルが開いてないのだ。絶望に立ち尽くすわしに、オヤジはニヤニヤしながら近づいてきて、変な汗をかいた。

 

  200元でうちのバスに乗せてやるぞ、とオヤジは言う。こんなものボッタクリにきまってる。半額の100元だと言い返すと、オヤジは怒り、勝手にしろと言って去る。困った。仕方なくオヤジの後を追いかけて、根気よく交渉する。その途中、同じように正規のバスがなく困っているモンゴル人の若い女の子が来る。助かった、この値段設定どうなんですか、と聞くとまあ妥当な金額の話らしい。道端で声掛けしてくるオヤジの話を聞かないことを信条にしていたわしだったが、コロッと寝返ることにした。信条もケースバイケースだ。

 

 バスを事前に見せてくれと頼むと、それは寝台車だった。今日はもう満員らしく、あんたたちはバスの通路で寝てくれ、とオヤジに言われる。なんてこった、ヘルニア持ちの腰が死ぬと思ったが、他に手段もないので、何とかなると思うことにした。

 

  出発時間は遅延に遅延を重ね、4時間ぐらいは待った。待合室はすぐに満員になったので、駐車場の地べたに座って待った。そうして、凧揚げをして遊んでいるおじいさんをぼんやり眺めていた。楽しそうだった。幾つになっても遊び心は忘れないぜという顔をしていた。しばらくして、駐車場に車が結構な勢いで入ってきて、そのおじいさんが慌てる。あれよあれよと言ううちに、凧は入ってきた車に憐れに牽かれた。おじいさんは車に向かって腕を振り上げて抗議していた。可哀想にと同情したが、いやここ駐車場だしなと思い直した。

 

  ようやくバスの発車準備が整い、係員が席の配分を始める。わしのチケットには、座席番号の所に『無』と書いてあったが、嫌だったので、席は何処だとしつこく尋ねた。煩いなという顔をされていたが、頑張り続けると何故か席がもらえた。いや、席あるんかいと独り言つ。とりあえず交渉してみるものだ。

 

   通路で寝る覚悟をしていただけに、ベッドに横たわると、幸せに浸った。日本でも寝台バス増やせばいいのにと思ったが、きっとこれはシートベルトが要らない国の為せる業なのだ。日本の自動車学校では、シートベルトなしで乗った後部座席の人形が、急ブレーキでフロントガラスに激突する動画を散々見たが、寝台車の急ブレーキでは、皆がベッドからすぽーんと飛び出すのかな。シュールだな。なんてことを考えながら眠りについた。

 

 夜中の12時頃、ふと目が覚めると、そこは砂漠地帯のようだった。真っ暗でよく見えないが、地形の起伏が分かる。こりゃぁ今夜はワクワクして寝られないぜと思ったが、30分くらいでまた寝た。

 

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                                   つづく