色黒の豚

飛ばねえ豚はただの豚だ

人間不信の黄色人

 海外に行く機会に幾度か恵まれ、何となく海外慣れを自負していたが、なんのことはない。今までに訪れた土地が、わりに行きやすい場だったのだろう。ザンビアの地方都市、カブエの街中を1人で歩くと、おれは、自分が普通にビビりだったことを思い出した。ここに、アジア人はまず歩いていない。すれ違う人は須らく黒人であり、おれはどうしようもなく目立つ。落ち着かなかった。こちらに向けられる眼差しの中は、好奇のもの、奇異なもの、訝しげなもの。そして、時折暗いものも感じる。路地裏のマーケットを通り過ぎると、座っていた男から、イエロー、と呟かれる。おれは、そのとき初めて自分が黄色人であることを意識させられたのだった。
 繁華街まで行くと、まばらにある床屋が爆音で音楽が流していた。そこら中から、ヘイ、ブラザー、ヘイ、マスター、マイフレンド、と何かしらの客引きが寄ってくる。目立つアジア人であるが故に、カモにされないか。ひったくりに遭わないか。そうだ、ここでは銃が合法だった。そう思うと、景色が変わって見え、変な汗をかく。地図を見たら、キョロキョロしながら歩いたら、如何にもカモみたいでまずい。なるべく、目を合わせずに。足早に。
 こうも不安になるのは、腹が減ってるからではあるまいか。何かを腹に入れようと、食べ物を探して歩く。なんとかカフェ、と看板のある店を覗くと、小さく、明かりのない暗い店ではあったが、そこでは、とにかく食べ物を売っていた。突然一人で入ってくるおれを見ると、店員さんはやはり訝し気な顔をしていたが、ミートパイを頼んだ。ザンビア訛りの英語は聞き取りにくく、英語までできなくなった気分になった。店内の古いテレビは、昆虫を特集とした生物番組を映しており、ぼんやり眺めながら食べた。少しして運ばれてきたミートパイはパサパサしていたが、肉肉しく、想像以上に腹にたまった。
 腹が満たされると、おれは何だか一仕事終えたような満足した気持ちになり、店員さんにサンキューと口にした。店員さんも、少し笑ってくれるので、うれしかった。外へ出ると、こちらへ向けられる眼差しも、それ程気にならなくなってくる。こちらを見るちびっ子たちにも、サービス精神が生まれ、手を振ると、気持ちよく笑って手を振り返してくれる。荷物を頭に載せて歩く女の人の後ろを歩き、家路に着いた。
                                 (つづく)