色黒の豚

飛ばねえ豚はただの豚だ

渇いた国境移動

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  北京からやってきたバスは、二连浩特に朝7時に着いた。モンゴルの国境の街、ザミンウード行のバスは11時発。4時間はあった。とりあえず休もうと、バスターミナルのベンチに腰掛ける。大きな待合室には、お兄さんとわしの二人だけ。バスのチケットはあったか、と中国語で話しかけてきた、そのお兄さんは、モンゴル人のようだった。

 

 要件を聞き合った後、暇だったので、ベンチで喋り合った。年齢は30手前で子供もいる。仕事の関係で、殆ど毎月中国とモンゴルを往復するらしい。中国語の儒教思想モンゴル語に訳すのが趣味だという。わしは日本人、と言うと、曲名は知らないが好きな日本の歌があると言って聴かせてくれた。「いい日旅立ち・西へ」鬼束ちひろ。どういう経緯でこの曲を好きになったのか謎だが、いいなと思った。

 

 わしゃ腹が減ったと言うと、ターミナル隣のモンゴル料理屋さんに連れて行ってくれる。店内は広いが、薄暗く、人も殆どいない。テレビは、モンゴル語で全く分からなかった。肉を煮る匂いがした。お勧めを聞き、ボーズという羊肉の小籠包のようなものを注文してもらう。うまい。15個くらいのセットで、ひたすら肉々しかったが全部食べた。

 

 満席のバスに揺られながら、国境に向かう。バスの中は殆どモンゴル人だ。大荷物の人も少なくない。しかし隣はたまたま中国の若い人。観光ではなく、仕事で向かうそうだ。時間も体力もいるので、観光客はあまり陸路で移動しないのだろうと思う。満員でむさ苦しいバスは、渇いた砂の上を淡々と走る。国境付近で軍服の中国人がバスの中に入り、パスポートを見て回る。有無を言わせぬ威圧的な空気は中国の地下鉄や空港の荷物検査のようだ。

 

 バスを降りて、入国管理局の建物に入る。書類を書いて、パスポートを見せる。管理局には、外国通貨の換金所があり、中国元をモンゴル紙幣に換金する。モンゴル紙幣は、札束が多く、財布がパンパンになる。はてさて、中国の携帯電波は国境を跨いだ瞬間に使えなくなるのかしら。それとも、しばらくは大丈夫なのかしらという疑問が長らくあったが、見事に国境を跨いですぐ、使えなくなった。

 

 再びバスに乗り、しばらく揺られる。バスは突然荒れ地に止まり、そこから歩くと、モンゴルの国境の街、ザミンウードに着いた。ここから首都ウランバートルまでの夜行列車の切符を買うが、窓口に書いてあるモンゴル語が全く分からない。仲良くなったお兄さんに片っ端から聞いた。多分に一人ではどうにもならなかったが、一人で行って助けてくれる人はいるものだった。一人旅は、人の優しさが染みる。

 

 夜行列車の発車までは、5時間近くあった。お兄さんとぶらぶら歩いたり、ご飯を食べたりした。それでも時間が余り、二人でベンチに座ってぼーっと列車を待った。モンゴルと中国を往復するお兄さんは、この夜行バス、夜行列車移動を毎月繰り返す。果てしない時間のように思えた。が、不思議と退屈しているようには見えなかった。暇な時間との付き合い方がうまいみたい。

 

 やがて、列車が来た。

 

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つづ