色黒の豚

飛ばねえ豚はただの豚だ

現代的なゲル

ゲルに着いて、驚いたのが、液晶テレビがどっしり構えていたことだ。五畳くらいのテントの中にベッドが2つと他にテレビだったり、冷蔵庫もどきだったり、電化製品が並んでいる。そりゃ所得があると考えると、不思議ではないが、遊牧民というワードの先入観に騙される。ゲルの中は、冷房がなくとも少しひんやりとして涼しく、気持ちが良かった。

 ゲルは大草原の遊牧地の中に群立している。大草原の中にゲルが30-50ぐらい並んでいる様子は、モンゴルの牧歌的なイメージを裏切らず、おれは大いに感動した。辺りには、羊やヤギ、ヤクの大群が放牧されている。しかし、家であるゲルの外には、ソーラーパネルが設置されていて、中には、電化製品が揃う。その隣には、家宝らしいモンゴルの立派な馬具が並んでいたりして、これが今日の遊牧民の家かぁとしみじみと思う。おれは遊牧民の暮らしというものに、昔と違わぬ伝統のイメージを押し付けていたが、彼らの暮らしも当然に年々変わっているのだ。

遊牧民族の目下の悩みは、後継者不足らしい。昔はそうでなかったが、今は子供を都市部の学校に行かせるため、子供が都会での生活を選び、ゲルには戻ってこないのだという。確かに都会での暮らしを体験した後に、ゲルに戻る気にはなれないかもしれないが、より良い生活の選択の結果として、遊牧民の暮らしは少しづつ廃れる。おれがそれを寂しいようだというのは、部外者の勝手であるが。

 滞在した時期は、子供が夏休みだったので、遊牧民のお爺さんお婆さんの孫が5~6人、遊びに来ていた。暇なのでちょっと混ぜてもらうと、色んな動物の所に連れて行ってくれる。生まれたてのヤギだとか、普段乗っている馬だとか。ちびっ子は、藁の小屋に向かうと、両の手で一匹ずつ、子猫の首根っこをむずと掴み、ケラケラ笑いながら見せてくれる。モンゴルで猫は忌み嫌われているらしく、大人たちは嫌だ嫌だといって退散する。なんでも、猫は飼い主の死を望む眼をしているのだとか。チミタチも随分な言われようだな、と思いながら、子猫の頭をなでた。

 

                                    つづく