色黒の豚

飛ばねえ豚はただの豚だ

ウランバートルの外に

 ウランバートルは、外国企業の集う都市であるが、その外縁部にはもう遊牧民が住む荒れ地や大草原が広がっている。ウランバートルのゲストハウスでは、遊牧民の住むゲルでのホームステイをアレンジしていて、是非と参加した。

 ウランバートル市内は、交通量が多く、渋滞がひどい。時間帯によっては、歩いた方が早いんじゃないかと思う。日本の中古車が多く、一昔前のような景色である。わしが乗った白タクは三台ともトヨタで、日本人だと運転手のおじさんに言うと喜んでくれる。モンゴルにいながらも、車のモニターが日本語なのは、不思議なものだ。この車たちもここで活躍するとは思ってなかったろう。

 市内を抜けると、車は殆どいなくなるので、車の走行時速が跳ね上がる。結構なスピードで、石がゴロゴロ転がるガタガタの道を下っていくから怖い。加えて、結構な頻度で後ろを振り向いて笑ってくる。頼むから前を向いてくださいと思う。ついでに、後部座席にもシートベルトをつけてくれとも。

 市内を出て30分もすると、草原と家畜の大群が出現する。ヤギ、羊、牛、そしてヤクだ。このヤクという生き物は見たことがなかったが、なかなかカッコイイ。牛のようだが、体毛が長く、垂れ下がっている。小学校のときに読んだ外国の本に、こんなのがいたなぁとふと思った。草と糞の生温かい匂いがした。

 ホームステイするゲルまでは普通車ではいけず、途中で降りる。山の中を歩いたり、川に横たわる大木を渡ったりして、集合場所まで向かった。林の中ほどで止まり、こんな目印のない所が集合場所かぁと思っていると、林の奥からジープが来る。まさか遊牧民のおじいさんがジープを運転してくるとは思っていなかった。

 ゲルの集落までの道程は、文字通りに険しい。道路なんてものはないので、林の中をガタガタ言いながら、草木をなぎ倒しながら進んでゆく。途中に川があったが、深くない、と言ってジープで川面を走っていく。豪快な運転だなぁと喜んでいるうちに、集落が見えてきた。

 

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                                    つづく

チンギス・ハーンのいた国

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 ウランバートルは、国境の街ザミンウードは違い、活気がある。駅を降りると、乗客を待っていた家族やら、ゲストハウスの迎えやら、客引きやらがドッと押し寄せてくる。客引きは絡んできても、もう宿決まってるからと返すと、楽しんでと言って手を振る。客引きなのに、なんて爽やかな連中だ。中国じゃ、ちょっとないかなと思う。

 

 駅から30分かけてゲストハウスに歩き、チェックインする。2日ぶりのシャワーを浴び、お湯が出るありがたみを知る。昼には着いたので、そのまま観光に向かえばいいのだろうが、わしは怠惰なのでベッドでゴロゴロする。実に快適なことである。

 

 ゴロゴロするのにも飽きてくると、のろのろ立ち上がり、少し外に出るかという気になる。ゲストハウスのスタッフに聞くと、隣にチンギス・ハーン広場なるものがあるらしい。想像力が貧しいため、歴史的建造物の類にはあまり興味を持てないのだが、近いし暇なので向かう。

 

 しかし、この不届きの目にも、チンギス・ハーン初代皇帝の姿はあまりに雄々しく映り、なかなかどうして感動した。国会議事堂である政府宮殿の裏に鎮座するチンギス・ハーン像は巨大だ。なんだこの存在感はと思うが、そういえばこの国には至る所にこの皇帝がいる。空港の名前もチンギス・ハーン空港だし、紙幣も大体チンギス・ハーンだ。これだけの歴史的キャラクターは日本にはいないだろうなと思う。世界史で習った、元の最盛期の勢力地図はちょっとありえない程に大きかった。モンゴルという国は、その歴史の上にいるのだ。盛者必衰の寂しさみたいなことを想像しながら帰って、またゴロゴロした。

 

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                                   つづく

 

緑の夜行列車

 

 ウランバートルに向かう夜行列車は、ペンキを塗り立てたばかりのような鮮やかな緑色をしていた。石炭を燃やして、モクモクと煙を出しながら駅に向かってくる。特別鉄道が好きということはなかったが、かっこ良い。さぁ乗りこむぞと思ってもしばらくドアは開かない。点検だろうか。20分ほど待って、ようやく乗り込んだ。

 

予約した寝台は、二段ベッドが二つ並んだ部屋の右上にある。北京から移動した夜行バスのベッドとは違い、足を伸ばせる広さがあり、感動した。ベッドに寝転がっていると、同じ部屋の残り3人が入ってくる。いきなりゴロゴロしてるのを見られるも気恥ずかしいな、と体を起こすと、モンゴル語で話しかけられる。分かりませんという顔をすると、英語で話しかけてくれる。ありがたい。3人はモンゴルの大学生だった。韓国に留学をしているらしい。故郷に帰るのは2年ぶりだと言って、はにかんだ。

 

部屋の窓は大きく、景色が良く見える。列車がゆっくり走り始めると、少しづつ景色が変わった。ザミンウードの街中を抜けると、建物はなくなっていく。初めに見えたのは、荒れ地だった。石だらけの大地。ぽつぽつと、ゲルが見える。こんな所にも人は暮らしている。いくつかの閑散とした途中駅を過ぎ、次第に窓の外は砂漠のようになった。石から砂に、平地から砂の山に変わっていった。夕日が砂の彼方に沈んでいって、美しいと思った。

 

同室の3人はお菓子や飲み物を快く分けてくれる。いい人たちだ。お返しにと、中国から持ってきたレーズン的なものを渡すが、あまり美味しくなかったので悪いことをしたかもしれない。3人は日が沈んでも、遅くまで勉強をしていた。えらい。わしは暗い窓の外に何か見えないかと目を凝らしていたが、そのうちに寝た。

 

朝起きると、モンゴルの草原の中にいた。牛がいて、馬がいて、ヤクがいた。開いた窓から草の匂いがする。こんなに気持ちがいい景色があるものかと興奮した。同室のモンゴルの大学生も、そうだろう、綺麗だろうとニヤニヤする。綺麗だ。この列車の景色だけで、モンゴルに来た甲斐があった。ここがモンゴルでの感慨のピークじゃないかとさえ。

 

トイレに行って用を足し、ボタンを押すと、何と便器の底が開く。そして、そのままモノが線路に落ちていく。一瞬ギョットなったが、笑いたくなってきた。この大草原の中で、大して気にはしないのだろう。きっと街の近くでなければ。

 

ウランバートルが近づいてくると、カラフルな建物が現れてくる。綺麗な色合いだ。ちょっと中国では見ないような。列車は徐々に速度を落とし、ついに止まった。目の前のウランバートル駅は、白と緑を基調にした、お洒落な建物だ。同室の大学生に握手をして、列車を降りた。

 

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                                                                                                                               つづく

渇いた国境移動

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  北京からやってきたバスは、二连浩特に朝7時に着いた。モンゴルの国境の街、ザミンウード行のバスは11時発。4時間はあった。とりあえず休もうと、バスターミナルのベンチに腰掛ける。大きな待合室には、お兄さんとわしの二人だけ。バスのチケットはあったか、と中国語で話しかけてきた、そのお兄さんは、モンゴル人のようだった。

 

 要件を聞き合った後、暇だったので、ベンチで喋り合った。年齢は30手前で子供もいる。仕事の関係で、殆ど毎月中国とモンゴルを往復するらしい。中国語の儒教思想モンゴル語に訳すのが趣味だという。わしは日本人、と言うと、曲名は知らないが好きな日本の歌があると言って聴かせてくれた。「いい日旅立ち・西へ」鬼束ちひろ。どういう経緯でこの曲を好きになったのか謎だが、いいなと思った。

 

 わしゃ腹が減ったと言うと、ターミナル隣のモンゴル料理屋さんに連れて行ってくれる。店内は広いが、薄暗く、人も殆どいない。テレビは、モンゴル語で全く分からなかった。肉を煮る匂いがした。お勧めを聞き、ボーズという羊肉の小籠包のようなものを注文してもらう。うまい。15個くらいのセットで、ひたすら肉々しかったが全部食べた。

 

 満席のバスに揺られながら、国境に向かう。バスの中は殆どモンゴル人だ。大荷物の人も少なくない。しかし隣はたまたま中国の若い人。観光ではなく、仕事で向かうそうだ。時間も体力もいるので、観光客はあまり陸路で移動しないのだろうと思う。満員でむさ苦しいバスは、渇いた砂の上を淡々と走る。国境付近で軍服の中国人がバスの中に入り、パスポートを見て回る。有無を言わせぬ威圧的な空気は中国の地下鉄や空港の荷物検査のようだ。

 

 バスを降りて、入国管理局の建物に入る。書類を書いて、パスポートを見せる。管理局には、外国通貨の換金所があり、中国元をモンゴル紙幣に換金する。モンゴル紙幣は、札束が多く、財布がパンパンになる。はてさて、中国の携帯電波は国境を跨いだ瞬間に使えなくなるのかしら。それとも、しばらくは大丈夫なのかしらという疑問が長らくあったが、見事に国境を跨いですぐ、使えなくなった。

 

 再びバスに乗り、しばらく揺られる。バスは突然荒れ地に止まり、そこから歩くと、モンゴルの国境の街、ザミンウードに着いた。ここから首都ウランバートルまでの夜行列車の切符を買うが、窓口に書いてあるモンゴル語が全く分からない。仲良くなったお兄さんに片っ端から聞いた。多分に一人ではどうにもならなかったが、一人で行って助けてくれる人はいるものだった。一人旅は、人の優しさが染みる。

 

 夜行列車の発車までは、5時間近くあった。お兄さんとぶらぶら歩いたり、ご飯を食べたりした。それでも時間が余り、二人でベンチに座ってぼーっと列車を待った。モンゴルと中国を往復するお兄さんは、この夜行バス、夜行列車移動を毎月繰り返す。果てしない時間のように思えた。が、不思議と退屈しているようには見えなかった。暇な時間との付き合い方がうまいみたい。

 

 やがて、列車が来た。

 

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つづ

砂漠に行きたくて

 椎名誠の『砂の海』を読んで、無性に砂漠を見たくなった。何処を見渡しても砂しかない、大陸の大砂漠に圧倒されたかった。真っ先に思い付いたのは、中国の内モンゴル。住んでいた北京に近く、留学生の間でも人気の観光地だ。さぁブームに便乗だ、と調べるが、1人で行くと安くない。くそ、素直に安い留学生ツアーで行けば良かったと落ち込むが、閃く。中国を出よう、モンゴルに行こう。調べてみると、北京から夜行バスと夜行列車を使って5千円強でいけるらしい。これしかねえ、スーホの白い馬よ、大砂漠よ、待っておれ。と小躍りした。

 

 まず北京から夜行バスで、中蒙国境の街、二连浩特を経由する。都市部から少し離れたバスターミナルに向かった。その付近は瓦礫が多く、砂埃が舞っている。何となく不穏だ。ターミナルを見つけ歩いていくと、待ち構えていたように、路上に立っていたおじさんがこちらを見て叫ぶ。バスはだめだ!コッチニコイ!!その声量に一瞬鳥肌が立つ。客引きオヤジめ、あんなもん見ザル聞カザルだ、と無視して進んだ。が、しかし本当に、バスはだめだった。ターミナルが開いてないのだ。絶望に立ち尽くすわしに、オヤジはニヤニヤしながら近づいてきて、変な汗をかいた。

 

  200元でうちのバスに乗せてやるぞ、とオヤジは言う。こんなものボッタクリにきまってる。半額の100元だと言い返すと、オヤジは怒り、勝手にしろと言って去る。困った。仕方なくオヤジの後を追いかけて、根気よく交渉する。その途中、同じように正規のバスがなく困っているモンゴル人の若い女の子が来る。助かった、この値段設定どうなんですか、と聞くとまあ妥当な金額の話らしい。道端で声掛けしてくるオヤジの話を聞かないことを信条にしていたわしだったが、コロッと寝返ることにした。信条もケースバイケースだ。

 

 バスを事前に見せてくれと頼むと、それは寝台車だった。今日はもう満員らしく、あんたたちはバスの通路で寝てくれ、とオヤジに言われる。なんてこった、ヘルニア持ちの腰が死ぬと思ったが、他に手段もないので、何とかなると思うことにした。

 

  出発時間は遅延に遅延を重ね、4時間ぐらいは待った。待合室はすぐに満員になったので、駐車場の地べたに座って待った。そうして、凧揚げをして遊んでいるおじいさんをぼんやり眺めていた。楽しそうだった。幾つになっても遊び心は忘れないぜという顔をしていた。しばらくして、駐車場に車が結構な勢いで入ってきて、そのおじいさんが慌てる。あれよあれよと言ううちに、凧は入ってきた車に憐れに牽かれた。おじいさんは車に向かって腕を振り上げて抗議していた。可哀想にと同情したが、いやここ駐車場だしなと思い直した。

 

  ようやくバスの発車準備が整い、係員が席の配分を始める。わしのチケットには、座席番号の所に『無』と書いてあったが、嫌だったので、席は何処だとしつこく尋ねた。煩いなという顔をされていたが、頑張り続けると何故か席がもらえた。いや、席あるんかいと独り言つ。とりあえず交渉してみるものだ。

 

   通路で寝る覚悟をしていただけに、ベッドに横たわると、幸せに浸った。日本でも寝台バス増やせばいいのにと思ったが、きっとこれはシートベルトが要らない国の為せる業なのだ。日本の自動車学校では、シートベルトなしで乗った後部座席の人形が、急ブレーキでフロントガラスに激突する動画を散々見たが、寝台車の急ブレーキでは、皆がベッドからすぽーんと飛び出すのかな。シュールだな。なんてことを考えながら眠りについた。

 

 夜中の12時頃、ふと目が覚めると、そこは砂漠地帯のようだった。真っ暗でよく見えないが、地形の起伏が分かる。こりゃぁ今夜はワクワクして寝られないぜと思ったが、30分くらいでまた寝た。

 

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                                   つづく

はじめに

 ものを書いてみたい欲が募り、ブログを開設しました。エッセイ的なものを書き溜めてみたいと思っています。浅学は重々承知しておりますが、感想をもらえると嬉しいです。

 なお、文章だけでは、侘しいので、相棒のたぬきにお絵描きをしてもらうつもりです。